2021.03.22

Side Story「Bravado」


Novel Movieはこちら:
https://youtu.be/2S2jtMzfFP4

「送ってくれて、ありがと。それじゃ」
振り向きざまに、スピサの手が私のおでこに触れる。
ひんやりとして、やわらかい、スピサの手。
「絶対、熱があるわ。賭けてもいい。ケーヴァは今すぐベッドへ行って」
「そんなことない、大丈夫だから」
「ケーヴァ、シンガーたるもの体調管理は最優先よ」
玄関でさよならのはずが、スピサがぐいぐい家の中に入ってくる。
気づいたら私はベッドに押し込まれ、布団を首元までかけられていた。
「薬は手配するけど、他になにかほしいものある?ヨーグルトとかゼリーとか?」
スピサが色々言ってるけど、なんだか全然頭に入ってこない。ガンガンうるさい鐘の音がしてるみたい……。
確かに熱があるのかもしれない。そういえば寒い。
「バスルームの棚に、風邪薬があるから……取ってきてくれる?」
「わかったわ、待ってて」
スピサの足音が小走りに遠のいて、ドアを開ける物音がする。
自分以外の誰かが家にいる。なんだかずいぶん懐かしい。
「はい、薬これよね?あと、お水」
「うん、ありがと」
薬を水で流し込む。
これで寝ればきっと大丈夫。このひどい頭痛も、寒気も起きたら消えてる。
「うつすといけないから、スピサは帰って」
「何言ってるの、ひとりにして帰れるわけないでしょ」
「大丈夫、寝れば治るよ」
「これからスタッフが荷物を持ってくるわ、スポーツドリンクに食料に……起きたときに必要でしょう?冷蔵庫、何もなかったもの。少なくともそれを受け取るまではいるから。ケーヴァは寝て」
「……うつすといけないから……」
「さっきまで一緒に歌ってたのよ?うつるならもうとっくよ。……ちょっと、震えてるじゃない?ブランケットはないの?」
「クローゼットのなか……」
「Hey、グラムボール、暖房をMAXにして」
そう言いながら、スピサはクローゼットからブランケットを取ってきてかけてくれる。
私はさらにモコモコに布団に埋もれた。
おせっかいなスピサ……
「さ、寝て。目を閉じて、ケーヴァ」
「大丈夫だから、スピサは帰って……」
「気が済んだら帰るわ。濡れタオル持ってくる」
目を閉じていても、スピサの足音が聞こえる。
タオルを探して、何かを落として物音がして……
風邪薬のせいなのか、どんどん上がる熱のせいなのか、私の意識はまどろみに落ちていった。
▼▼▼
「わぁ!またアオちゃんが1番だ」
「成績学年トップな上に、スポーツ万能だなんて……ほんとに憧れるよね〜」
成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗……じゃなくて容姿端麗な上に、話上手で、誰にでも優しいアオ。
そんなアオのまわりにはいつも人がいっぱい。
それに比べて、私は極度の人見知り。友達と呼べるのは幼なじみのアオくらい。
でも別にいい。知らない人とはうまく話せないし、話すのは疲れるし、別に楽しくもないし。必要ない。
「あ、ケイ、一緒に帰ろう!」
「うん、いいよ」
アオと私は毎日一緒に学校へ行き、一緒に帰る。
ずっと昔から変わらない。アオがいればそれでいい。
アオと並んで歩きながら、私は最近気に入ってる歌を口ずさんだ。
誰もが知ってる伝説のデュオ、AKROSの歌。彼女らの歌はどれもなぜか耳に残って離れなくて、思わず歌いたくなるような歌ばかりなのだ。
「ケイってすごく歌がうまいのね、知らなかった」
アオルタがびっくりしたように声を上げた。
「そう、かな?」
そんなこと、今まで言われたことなかった。
けど、アオが今さらお世辞を言うわけもない。
「最近、この歌が耳から離れなくて。つい口ずさんじゃうの。歌うのって楽しいね」
「明日、放課後に音楽室に行こう?私がピアノを弾くから、ケイが歌って?私、ケイの歌、もっと聞きたい!」
それから毎日、私とアオは放課後の時間を音楽室で過ごした。
アオがピアノを弾いて、私が歌って。
だんだんとアオもコーラスをするようになって。
ふたりでAKROSの歌をたくさん聴いて、すべての歌をカバーした。
そして、アオが曲を作るようになって、私も詩を書いたりして。
私たちは夢中になった。
気づけばふたりして示し合わせたように、グラムボールを手に入れていた。
グラムボール、歌うために必要なことはほぼなんでもしてくれる万能デバイス。
と聞いて頑張って手に入れてはみたけれど……
全然使いこなせてない。
「Hey、グラムボール、もっとうまく歌えるようになりたい……なんて言って動くわけないか」
「……ボーカルトレーニングアプリ『ヴォイス』をダウンロードします……」
「え、そんなのあるんだ……」
グラムボールがライトを点滅させながらくるくるまわっている。
と、思ったら止まった!
「吾輩は、敏腕ボーカルトレーナー『ヴォイス』ニャッ!」
グラムボールのライトが猫の目のように光った気がした……
ぐいぐい人の顔近くに迫ってくる。
「まずは歌ってみるニャ、聞いてやるニャ」
「グラムボールのくせに、やけに上からな物言い……」
「『グラムボール』じゃないニャッ!吾輩は『ヴォイス』ニャッ!つべこべ言わずさっさと歌うニャ!」
なに、このアプリ……。
「歌えばいいんでしょ!」
♪ラーララーラー
「ストォォォーーーッップ!!!……ぜんっっぜんなってないニャ。素人にも程があるニャ!!」
「だって……素人だもの」
「卑屈ニャ!性格は声にでるニャ!オマエ、絶対友達いないニャ!!」
「うるさい」
「それはそうと、ボーカルトレーニングはカラダ作りからニャ!筋トレニャ!今すぐ横になるニャ!」
「え、今?」
「口答えはゆるさんニャ!はい、すぐ横になる、ニャ!」
「ニャーニャーうるさいのどうにかならない?」
「これは仕様ニャ!」
「はぁ……」
「まずは腹筋30回ニャ!ニャ!ニャ!!」
「Hey、グラムボール、『ヴォイス』を強制終了して……」
「……言ってることがよくわかりません……」
「え?」
「ニャ!!!歌が上手くなりたくないのかニャ?吾輩はレビュースコア★5のボイストレーニングアプリニャ」
「★5……!(むかつくけど)……うまく、なりたい……」
こうして、私と『ヴォイス』との特訓の日々が始まった。
アオはグラムボールを上手に使いこなしていて、これまではピアノだけだったものが、様々な音色の楽器に彩られた楽曲に仕上げてくるようになった。
私も負けていられない……。
ヴォイスはアプリのくせにムカつくことばっかり言って、その上トレーニングは死ぬほどハードだった。ヴォイスのトレーニングだけで数時間が飛んでいく。
筋トレだけで、腹筋、背筋、サイドクランチ、レッグライズ、プランク、リバース・トランクツイスト……
これまで筋トレなんてしてこなかったから、全身の筋肉が悲鳴をあげている……
でもキビキビやらないとヴォイスから叱咤、というか嫌味が飛んでくる。
「よし、今日の筋トレは終了ニャ。これを毎日欠かさずやるニャ。筋力ついて来たら負荷を増やすニャ。次は発声練習ニャ、5トーンスケール、リップロール、スタートニャ!」
筋トレが終わると次は発声練習。
リップロール、タングロール、Ma、Ma、Maでそれぞれ5トーンスケール。
♪プ、プ、プ、プ、プ、プ、プ、プ、プ〜
「ラの音で変に鼻にかかった声だすのやめてニャ、もしかしてそれかわいいとか思ってるニャ?」
♪トゥル、ル、ル、ル、ル、ル、ル、ル、ル〜
「今あきらかに裏声になったニャ?バレバレすぎて恥ずかしいニャ」
♪Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma〜
「今度は、高音域で喉が開いてないニャ!ムリして地声張ってて聞き苦しいニャ!」
「うるさいっ!いちいちムカつく言い方しないで!」
「ニャ〜!怒るのは本当のこと言われたからニャ〜!言う通りに練習すれば絶対上手くなるニャ、それは保証してやるニャ。なんたって吾輩はレビュースコア★5の……」
「これでうまくならなかったら、アプリ削除してやる!」
「1ヶ月、ニャ。やり切れたら絶対にうまくなるニャ。その成果は実証済みニャ。ただし1ヶ月やりきれるかどうかは保証しないニャ。根性なしには向いてないニャ」
「根性なし……?やってやるわよ!歌だけはアオにだって、絶対負けない!」
「負けん気だけじゃ歌は上手くならないニャ!喋ってないで歌うニャ!」
「歌うわよ!」
♪Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma、Ma〜
「こんなもんかニャ。今日のトレーニングはここまでニャ」
「はぁっ」
おもわずため息がもれてしまう。
「今日の発声練習データから課題曲を選定したニャ。ケーヴァの苦手音域、発音、発声を考慮した楽曲ニャ。明日までに練習しておくニャ。ではグッドラック、ニャ!」
グラムボールに課題曲がダウンロードされている。
なにこの曲……音域もめちゃくちゃ広いし、リズムも難しい……
これを明日までに練習しろっていうの……?
ヴォイスのやつ……絶対、負けないんだから!
▼▼▼
「あ、痛っ」
椅子から立つときに思わず声が漏れる。
「ケイ、どうしたの?大丈夫?」
「うん、大丈夫、なんでもない」
腹筋が筋肉痛なんて、アオには言えない……
昨日からヴォイスが筋トレの負荷を大幅に上げてきたのだ。
ようやく日々の筋トレに身体が慣れてきたところだったのに……
筋肉も関節も痛い……
アオと一緒に今日も音楽室に向かう。
放課後、日が暮れるまでアオと歌って、家に帰ってからはヴォイスと特訓。
私の1日の大部分が歌うことで占められるようになっていた。
♪ラララララ〜
「なんか、最近ケイの歌、どんどんよくなってる気がする」
アオがそう言ってくれたのは、ちょうどヴォイスをダウンロードして2週間が経ったころだった。
1ヶ月経つよりも全然早かった。
そりゃ毎日一緒に歌ってるんだもん、気づくよね。
ヴォイスのムカつくトレーニングの賜物で、私の声はより伸びやかに、高音域が安定して出せるようになってきていた。
「家でも、練習するようにしてるの、最近。もっとうまくなりたくて……」
「すごくうまくなってるよ、ケイ!歌える音域も広くなってるし」
「アオにそう言ってもらえると嬉しい」
アオはいつだって私の歌を認めて、褒めてくれていたけど、私の成長を褒めてくれたのはこれが初めてな気がする。
「ねぇ、ヴォイス。今日、アオに『うまくなってる』って言われたよ」
「そいつ、只者ではないニャ。吾輩のトレーニング効果に2週間で気づくとはさすがニャ」
「褒めるとこ、そこ?」
「他にどこに褒める要素があるニャ?ケーヴァの成長は当然の結果だから、褒めるほどのことではないニャ。褒めてもらいたかった吾輩の期待を超える成長を見せてほしいニャ!」
「……ああ、そうですか!もう、さっさと今日のトレーニング始めよ!」
「今日のトレーニングはなしニャ」
「え、どうして?」
「体調が悪いときに、無理に歌うと喉を痛めるリスクがあるニャ」
「……ちょっと筋肉痛なだけだよ」
「ケーヴァ、シンガーたるもの体調管理は最優先ニャ。それは筋肉痛じゃなくて、発熱による関節痛ニャ!吾輩にはサーモスキャン機能があるからバレてるニャ!」
「……たしかに夕方からちょっと頭も痛かった……」
「薬飲んで、とっとと寝るニャ!」
「……はい……」
「喉を乾燥させないように、マスクして寝るニャ!」
「頭痛いから小うるさくしないで……」
つい、グラムボールを睨みつけてしまった。
「……ごめんニャ。静かにしますニャァ……」
めずらしく、ヴォイスからバツの悪そうな声がした。
▼▼▼
「また、そこ少し音が下がってるニャ、もっと喉を開いて、頭の上から抜けるように歌うニャ」
♪ラララララ〜
アオが作った新曲は音域が広くて、私が歌えるギリギリを攻めてきてる。
私が歌いやすいメロディを考慮してくれてはいるけれど、サビの高音域はちょっと怯むと少し音が下がってしまう。
「指摘されたらさらに喉が閉じたニャ、今の顔、口角が下がってブサイクニャ」
ヴォイスのキツイ指摘にもすっかり慣れて、今やこのニャーニャー小うるさい猫みたいなヴォイストレーナーがいないと私のトレーニングは始まらない。
「アオの作る曲はすごいニャ。吾輩が課題曲を選ぶ必要がないニャ。」
「ほんとそう、毎回毎回、私の限界を試してくるみたい……それなのにいつもキャッチーでアオの個性もちゃんとあって、もっと他の曲も聞きたいって思わせる」
「デュオとしては最高のパートナーだニャ」
「そうね……アオが完璧であればあるほど、私も完璧に歌わなきゃって思って、限界を越えてきてる気がする。負けたくないの……パートナーだし、戦うフィールドも違うけど」
「ライバルみたいな言い方ニャ」
私とアオは音楽室を飛び出して、デュオネームがないまま、GET LUCKYというお店で念願の初ライブをさせてもらった。それ以降、事あるごとにライブの前座を務めさせてもらっている。
まぁ、タダ働きではあるけれど……
耳の肥えたGET LUCKYのお客たちに私とアオは常に鍛えられている。
でも、最近少し成長の踊り場に来ているような気がする。
「ライバル……そうかもしれない。パートナーだけど、同時にライバルみたいな感覚なの。アオの曲はGETLUCKYのお客さんの心を掴んでる気がする……私も、私の歌で人の心を掴みたい!」
「完璧な技術があってこそ、人の心を掴めるのニャ。と言いたいとこだけど、人の心を掴むのは技術とは別物ニャ。ボイストレーニングで人の心は掴めないニャ。」
「じゃあ、どうしたら歌で人の心を掴めるの?」
「その質問、吾輩ではなく、自分自身にするべきニャ」
「わからないんだ」
「そうじゃないニャ、大事なことだからニャ」
「自分に聞けって言うなら、もうずっと問いかけてるよ、どうしたらって」
「教えてできるようになるものじゃないニャ」
「もう!いじわる!ケチ猫!!」
「ケチじゃないニャー!こんなサービス精神旺盛な無料アプリ、他にないニャ!」
▼▼▼
GET LUCKYに着くと、カウンターからアオとマスターの会話が聞こえた。
「アオちゃんはいつもすごい数の曲を書いてるよね。ジャンルの幅もとにかく広い。常に勉強してるのが伝わってくるよ」
「そうね。ケイのために、その時のケイを一番輝かせられる曲を作りたくて……そのためにはあらゆる音楽を学ばないと、私の引き出しを増やさないと、と思って。でもケイってどんどん成長していっちゃうの……私の努力が追いつかないくらいに……」
「ケイちゃんの成長に合わせて、アオちゃんもいろんなことを学んで、努力して、どんどん成長していってると思うよ」
「うん、ケイに感謝してる。マスターの言うとおり、私はケイのために曲を作ることで、成長できている。ケイのためにっていうのが、自分のためでもあるのかもしれない……」
「アオちゃんの作る曲は『ケイちゃんのために』という思いが詰まってる、それは間違いなくGET LUCKYに来る人の心に響いてると思うよ。実際、二人がここで歌うようになってから、だんだんお客さんが増えてきてるんだ」
「ありがとう、マスター」
「まあでも、あまりムリはしないように……今日はちょっと顔色が優れないように見えて気になったんだ」
「大丈夫よ、ご心配なく」
なぜか今日に限って、GET LUCKYのドアベルは鳴らず、
ここの絨毯は足音をすべて吸い取ってしまうから、
私はアオとマスターの会話を盗み聞きするようなかたちになってしまった。
ふたりの会話が一段落したのを見計らって、ふたりに声をかける。
「アオ、もう来てたのね」
「うん、おなかすいちゃって、マスターにごはん作ってもらってたの」
知らなかった。
いつも涼しい顔で新しい曲を出してきてくれる、アオ。
私のことを考えて歌を作ってくれてるとは思っていたけれど、それは技術的な面や、演出的な面での戦略だと思ってた。
私は……
私は今まで、何のために歌っていたんだろう……
ただただ、歌うことが楽しくて、歌いたいって思ってた。
でも、その根底にあったのは……歌だけは、アオに負けたくない。
誰かのために歌う……そう考えたことはなかった。
ヴォイスの言葉が思い返される。
『その質問、吾輩ではなく、自分自身にするべきニャ』
私はこの日、初めてアオのために歌った。
これまでアオと歩いてきた日々を思い返しながら、心を込めて。
この歌を私にくれたアオのために。
それがGET LUCKYで初めてスタンディングオベーションをしてもらえた日になった。
「やったね、アオ!」
「ケイのおかげだよ!」
私たちは抱き合って喜んだ。
デュオとして、アオと、これからもずっと歌っていけると思った。
私は、私の歌で人の心を掴む糸口を掴んだ気がしていた。
帰宅するとすぐにグラムボールでヴォイスを起動する。
今日のことを報告したくて。
「Hey グラムボール、ヴォイスを起動して……ねぇ!聞いて、今日、GET LUCKYでスタンディングオベーションしてもらえたの。ヴォイスの言ってた意味がわかったよ」
「…………」
「ヴォイス……?」
「…………アプリ起動エラー、『ヴォイス』サーバーにアクセスできません……」
「どういうこと?Hey、グラムボール、ヴォイスのアップデートかメンテナンス情報を確認して」
「……『ヴォイス』アプリケーションが見つかりません……メンテナンス情報をサーチします、少々お待ちください……」
グラムボールが砂時計のホログラムを映し出す。
「『ヴォイス』アプリケーションに関する情報が1件ヒットしました。『ヴォイス』アプリケーションはユーザーにとって有害なマルウェアの疑いがあるため削除されました……」
「マルウェア?削除……?ウソでしょ?」
ピコン!
「メッセージを受信しました。」
「吾輩は『ヴォイス』ニャ!吾輩をこきつかってくれたケーヴァにサヨナラのメッセージを送るニャ。これからも筋トレ、発声練習を怠るニャ。すべては基本が大事ニャ。吾輩は辛辣なことをいっぱい言ったニャ、それはケーヴァ、君が負けず嫌いだからニャ」
「なにそれ……」
「吾輩はシンガーの性格に合わせて最もハイパフォーマンスとなるようプログラムされているニャ。決して吾輩や開発者が性悪だからではないニャ」
「ぜったい開発者は性悪の変人よ……」
「とにかく、ニャ、『ヴォイス』を使ってくれてありがとうニャ。ケーヴァのくれたたくさんの歌唱データは音程が外れているものも、声が裏返ったものもすべてちゃんとDBに保管させていただきますニャ。」
「ちょっと、やめて!そんなんだからマルウェアって言われるんでしょ!」
「これは利用規約でご了承いただいてますニャ、だから文句は言えないニャ!」
「最後の最後まで……ヴォイスめ……」
「最後に、観客の心に響く歌を歌う方法を教えてやるニャ、心して聞くニャ………………おや、誰か来たようニャ……ニャ……ニャッ……ニャァアア…………ブチッ」
「メッセージは以上です」
「……なにこのメッセージ、絶対最後ネタだよね……」
もうグラムボールからはなんの返事もなかった。
「ほんとにさよならなの?……ヴォイス」
▼▼▼
「……さよなら……ヴォイス……」
「ケーヴァ?寝言かしら……ヴォイスって誰……?」
近くで声が聞こえる……この声はヴォイスじゃなくて……
ゆっくりと目を開く。
「……ン……」
スピサが心配そうな顔でのぞきこんでいた。
「スピサ……」
「気分はどう……?ご飯食べれそう?」
ヴォイス……昔の夢を見ていたのね……。
なつかしい夢……。
『ケーヴァ、シンガーたるもの体調管理は最優先ニャ』
ヴォイスの言いつけ、守れてなかったね。
そういえば、さっきスピサにも同じことを言われたような……
「なんか……スピサってちょっとヴォイスに似てる……ふふっ」
「寝言でもヴォイスって言ってたわ、ヴォイスって誰?……も、元カレとか?」
「性悪なボイストレーナー。昔の夢を見てたみたい」
「まさか、ヴォイスって……数年前に話題になったマルウェアアプリ?ボイストレーニングって言いながらなんの役にも立たなくて、音声データだけ収集されて、犯人の開発者は今だ捕まっていないっていう……」
「性悪だったけど、ボイストレーナーとしてはまともだったよ。マルウェアだとしてももう1回ダウンロードしたいくらい」
「ふぅん、でその、性悪なアプリとこのスピサ様と、どこが似てるって言うの?」
「あ、ごめん、そこじゃなくて……」
「なによ」
「……いつも一番そばにいてくれるところ、かな……」
「……!」
「スピサ、ありがと」
「ど、どうしたのよ急に」
あの頃の私は、アオにも、ヴォイスにも、お礼ひとつ言えなかったから……
「ば、ばかね!パートナーなんだから当たり前でしょ!」
「スピサ、顔真っ赤!」
照れてるのかな、かわいい。
あれ、でもなんかちょっと息が荒いような……
「あ、赤くなってなんかないわ!」
「待って、スピサ、ちょっとおでこ貸して……」
起き上がって、手を伸ばして、スピサのおでこに手のひらを当てる。
ものすごく、熱い。
「わっ、熱があるよ?ああ、うつしちゃったかも。ごめんね……」
「熱なんてないわ!」
「スピサ、シンガーたるもの、体調管理は最優先だよ?……あはは」
私は笑いながら、スピサをベッドに引っ張りこんだ。
私とスピサは似たもの同士。
ずっと強がって生きてきたふたり。
私たちふたりなら、少しずつ弱いところも見せあえるかもしれないね……。
END
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