2021.04.26

Side Story「sparkler」


Novel Movieはこちら:
https://youtu.be/hY3KfDTKeoc

「ったく、なんだって僕らこんな辺鄙な場所に泊まらなきゃいけないんだよ!」
「まあまあ、ニナたん、ご機嫌直してよ〜。部屋もいっぱいあるし、探検したらおもしろいかもよ〜!」
ツアー中の滞在ホテルでSPIRALのカルトファンとニナたんが一悶着あって、ASTRAM御一行様はなんとホテルを追い出されてしまうという不幸な事態に……。
当然、ニナたんは不機嫌マックス。
「スタッフは別ホテルに移動なのに、なんで僕たちだけホテルじゃなくて貸別荘なんだよ……これじゃルームサービスも無いじゃないか……」
「夏のホリデーシーズンだからいい部屋が空いてなかったんだよ〜」
実際のところは、トラブルの火種がありそうなホテルよりも貸別荘に隔離したほうが安全、とマネージャーに判断されたんだろうとレナは思ってるけど。
「そういえばここ、客が少なくないか……?ホリデーシーズンなんだろ?……ここ、もしかして”いわくつき”なんじゃないのか?」
「ほぉぉぉぉ、おぉぉぉ……いわくつき……!」
「なんでそんな嬉しそうなんだよ……」
「ぜんっぜん!!そんなことないよ?何もないことを祈るばかりだよ?いやぁ困ったねぇ……まあ、次の移動日まで2泊の辛抱だよ!がんばろう、ニナたん!!」
「お、おぉ、急に早口だな」
都市部から離れた森の中。辺鄙なところにあるけど、まるでお城みたいなお屋敷の貸別荘。
内部はモダンにリノベーションされていて、インテリアのセンスもバリイケてる。
近隣には一応、湖もあってリゾートって感じかな?
そんな場所がこんな時期に借りれるなんて、たしかにフシギ……
「ほら、見てみろよ、レナ……」
ニナたんがグラムボールでホログラムスクリーンを映し出す。
『★1。夜に廊下から変な声が聞こえた。もう二度と泊まりたくない』
『★3。幽霊が見えた。怖い思いしたけど、彼女といい雰囲気になった』
『★5。期待を裏切らなかった!肝試しのために泊まるならオススメ!』
ほうほう、ナルホドね〜。この貸別荘のレビュー、凄いことになってる。これはバリ期待できそうな展開……
「わあ!ホントにいわくつきだねぇ♪」
「『だねぇ♪』じゃない!こんなとこ泊まれるか!」
「あれ、ニナたん、もしかしてオバケ怖いの〜?」
ふっふっふ。ニナたんの弱点はすべて承知の上……妹よ、姉を甘く見てはいけませんよ。
折り紙付きの心霊スポットに泊まれるなんて、ニナたんを愛でる最高のチャンス。
「怖くない」
「ならいいじゃん♪つまらないホテルより、こっちの方がずっと退屈しないよ♪」
「ま……まぁ、仕方ないな。付き合ってやるよ。レナ、お前ほんっと物好きだな……」
うひょぉぉぉニナたんの今日イチいただきましたぁぁあぁぁ!!
白米5杯はおかわりできそう。……っと、あぶない、内なるレナがバレないようにしなきゃ。
「なにか出たら、ニナたん守ってね♪」
「付き合ってられるか!……ん?レナ、なんか音がしないか?」
ギシギシ、ギシギシ
ギシギシ、ギシギシ、ギシギシ
上の階から、足音がする。お?いよいよなかんじだね。
この家には今、ニナたんとレナのふたりしかいないはずなのに!
ニナたんと顔を見合わせる。
「見に行こ!!!」
「おぉおおいレナ、おいてくな!!」
足音が聞こえた場所までダッシュ。後ろのニナたん、必死。そのまま勢いに任せてバターンとドアを開けた。
「な、なんだ。何もないじゃないか」
「うーん……ここから聞こえたはずなんだけどな〜。レナたち霊感ないのかも?」
誰もいない。空のゲストルームがあるだけ。
幽霊の足音もしなくなってしまった。なーんだ、せっかく盛り上がってきたのに。
すると、ヒュ〜っと、ニナたんのグラムボールが不審な動きをし始める。
「な、なんか僕のグラムボール、変なところにフォーカスしてないか?」
「わわわ、ホントだね〜。そこ怪しいね〜!!」
やっぱりいるっぽい!!でもこのままじゃ進展しないな〜。
幽霊ってどうしたら見れるのかな?
「Hey、グラムボール。『幽霊を見る方法』を教えて」
検索結果は……降霊の儀。
降霊の儀とは霊を呼び出す儀式です、と。
「ねえねえ、ニナたん!降霊の儀、やってみない?」
「いやそんなことしたって無駄だって……」
「ねね、暇つぶしに試してみようよ!見えるかもしれないし!」
「そ、そもそも幽霊なんているわけないじゃないか。このグラムボールだって、きっとなんかの故障で……」
「ほらほら、必要なものここに書いてあるからさ」
ニナたんガン無視で、降霊の儀の手順をグラムボールに教えてもらいながら準備を進める。
ブツブツいいながらニナたんも手伝ってくれた。いいやつ。
蝋燭にチョークに、カエルの干物……なんで必要なものが全部リュックに入ってるの?うちのスタッフ、エスパーだったっけ?
一通り準備が終わると、もう窓の外は夕日で赤く染まっていた。
「さぁニナたん、準備はいい?」
「あ、あぁ……うん大丈夫だ」
ニナたん、その調子。がんばれ。
降霊の儀の手順どおりに、蝋燭に火を灯す。
「「この館に憑きし者よ、その姿を現したまえ!」」
その瞬間、部屋の中が強いフラッシュに包まれた。
「!!」
光で目が痛い……
しばらく世界が真っ白になって、何も見えない。
「わわわ、凄いことになってるね!!ニナたん、大丈夫?」
返事がない。気絶しちゃったかな。ちょっと心配。
そして光は弱まり、ようやく視力が戻ってきた。
日が沈み、部屋は薄暗くなっていた。灯したはずの蝋燭たちもすべて消えている。
ニナたんは床に倒れていた。
「ニナたん!ニナたんっ!大丈夫!?」
「…………ナミ……」
「へ……?」
「ナミ、ボクだよ、わからないの?」
「ニナ……たん……?」
不安げな目をこちらに向けるニナたんは、なんだか別人のように見えた。
「ニナたん?ボクはセトだよ」
およよよよ?これは斜め上の展開。ニナたんのドッキリ?
「そんなこと言って〜、レナは騙されないよ♪」
ちょっと、やな予感がする。さっきのフラッシュ、普通じゃなかったし……
ニナたんの悪い冗談だといいんだけど。
でもニナたんは不安げな表情を崩さないどころか、悲しげな表情になる。
「ナミ……ボクだよ、セトだよ、どうしちゃったの?」
ありゃりゃ……これは本物っぽい。。
レナの中の双子の直感が囁く。これはニナたんじゃない。
「…………」
ニナたんが、いなくなっちゃった。どうしよう。
急に心細くなってきた。
言葉が出てこない。
「ナミ?大丈夫?」
目の前のニナたんの形をした人は、レナのことをナミと呼ぶ。わけがわからない。
ニナたん、どうしたらいいの?レナ、どうすればいいのかわからないよ。
「大丈夫じゃない!!お願い、ニナたんに戻って!」
「だから、ボクはセトだって……」
「鏡見てごらんよ!」
思わず、ニナたんの背後にあった鏡を指差してそう叫んだ。
「あっ……!」
ニナたんが振り向いて、鏡を見て、そして驚いて息を飲むのが分かった。
自称『セト』のニナたんが頭を抱えてうずくまってしまった。
「鏡に映ってるのはボクじゃない……なんで……どういうことなんだ……」
身振り手振り、声色、すべてがニナたんとは別物。
ドッキリの可能性はゼロだとわかった。
そして、愕然とするニナたん(仮)を観察しながら、何が起きたかようやく飲み込めてきた。
ニナたん、幽霊に乗り移られたんだ。降霊の儀って、そういうことだったのか。
「セトくんって言ったよね」
「あ、あぁ」
「落ち着いて聞いてね。実は、その身体はセトくんのものじゃない。ニナたんのものなの。レナとニナたんが、幽霊のキミを呼び出しちゃって、キミはニナたんの身体の中に入っちゃったみたいなの」
「ボクが幽霊……?」
「たぶん。キミ、ずっとこの家にいたんでしょ?」
「そう……だと思う」
「自分が幽霊だって、わかってた?」
「いや……思い出せない……けど、この身体がボクじゃないってことはわかったよ。身体の感覚も、まるでちがうからね……」
「OK、その身体はニナたんのものであって、キミのじゃない。ニナたんはこのワタシ、レナの妹。ここまでオーケー?」
こくん、とニナたんが頷く。
ニナたんがこんなキョドった顔で頷くとこなんて見たことない。
本当のサービスはここからなのか。神サマはなかなかドSだ。
「そしたら、その身体をニナたんに返してほしいんだけど」
ニナたんの眉毛が『ハ』の字になって、これまた見たこともない困った顔になる。
普段なら鼻血ものだ。でもレナは今それどころじゃないの。
もうやめて神サマ、こんどはレナが壊れちゃうよ。
「できるならそうしたいんだけど」
「うんうんそうだよね!早く返してほしい!」
「どうすればいいかわからないんだ」
レナの眉毛も同じように『ハ』の字になってしまった。
「うーそーでーしょー!?」
やだもう。泣きたい。
こういう時に解決策を編み出してくれるのはいつもニナたんなのに。
ニナたんがいないなんて。
いや、目の前にニナたんはいるのに、中身がニナたんじゃないなんて!
「ちょっと待って、除霊方法探すから……」
「わかった……」
除霊方法探すって言われて、素直に頷くニナたん。いやもうこの際、セトくんと呼ぼう。
「セトくん、キミいいの?除霊されちゃって!」
「ボクもなにがなんだかわからないよ。でも、キミは困ってるだろう?持ち主だって困ってるはず。借り物なら、ちゃんと返さなきゃ。その解決方法が除霊なんだとしたら、やってみるしかないと思ってる」
「キミ、いいやつだね……幽霊だけど……」
「除霊って言われるとちょっと複雑だけど、なんでもやってみるしかない!」
「うん!レナって呼んで」
「わかった」
▽▽▽
チュンチュン、チュンチュン。
「朝日を浴びたら、除霊できたりしないかな?」
「もう浴びてるけど、ごめん、ボクのままだ……」
とりあえず、レナたちはグラムボールが提案する除霊方法を片っ端から試した。
けど、ニナたんの中に入っちゃった幽霊のセトくんは相変わらずニナたんの中にいる。
なんで降霊は成功して、除霊は失敗するの。
「もうココで試せる方法は一通り試したね……あとは……この怪しい霊媒師を呼ぶしかないのかも」
「この人は怪しいね……さすがにボクもそう思う」
セトくんはグラムボールが映し出す怪しさ満天のオバサンを見つめる。
さすがにもう限界。。
「あー、こんなことになるんなら、ニナたんの言う通りにすればよかった……後悔……」
セトくんの前で思わずつぶやいてしまう。
「後悔……ボクの心残り……」
「あるの?」
「ナミ……」
「そうだ、レナのこと『ナミ』って呼んでたよね」
「ナミに……会いたい」
「心残りを解決する、か……いいかも!ナミさんを探そう!!」
「ナミの家、覚えてる。行ってみよう」
歩いて向かうのかと思ったら、セトくんはお屋敷の物置から自転車を出してきた。
レナもニナたんも自転車なんて乗ったことない。
けれど、セトくんが憑依したニナたんはスムーズに自転車を乗りこなしていた。
どこか寂しさを感じながら、セトくんの操る自転車の後ろにまたがり、ナミさんの家に向かった。
夏の日差しがこぼれ落ちる森の中の小道を、レナとセトくんが乗った自転車が駆け抜けていく。
ナミさんの家までは自転車で10分ほどの距離だった。
そこは寂れた廃屋になっていた。
草木が茂って、家屋を覆っていて、人が住んでいる気配は微塵もない。
むしろ幽霊が住んでいそうな場所になってしまっていた。
「ここがナミの家だったんだ……」
「誰も住んでいそうにないね。空き家になってから数年は経ってそう」
セトくんがすごく悲しそうな顔をしている。
外見はニナたんなのに、ぜんぜん違う表情をする。
レナはニナたんがいなくて不安なのに、そんな顔をされるとセトくんを励まさなきゃいけない気がしちゃう。悲しい顔をみるのは嫌だ。それがセトくんでも。
「ごめんね、レナ……ここにはナミはいないみたいだ」
「謝らないでセトくん。他にどこか行ってみたい場所か、ナミさんに会えそうな場所ある?」
「ナミに会えそうな場所……わからない……記憶にモヤがかかっているみたいに断片的にしか思いだせないんだ」
「断片的でも、どこか思い出せる場所があったら行ってみよう!」
セトくんはしばらく俯いて、黙り込んだ。
「……学校、今、学校が思い浮かんだ」
「行こう!」
再びセトくんの運転する自転車にまたがって、学校へと急いだ。
夏休みの学校は部活動で登校している生徒がいるくらいで、制服を着ていないレナたちでも簡単に中に入り込むことができた。
「学校って中に入るの初めてかも……ワクワク」
「レナ、学校に行ってないの?同い年くらいに見えるのに」
「うん、色々事情があるんだよ♪」
セトくんはASTRAMのこと、知らないんだ。
どれくらい前に死んじゃった幽霊なんだろう。
さっきのナミの家といい、5年、10年経ってるのかな。
それだけ時間が経ってる中で、セトくんの心残りを見つけられるんだろうか。
そうこうしてるうちに、ニナたんの魂が消えちゃうなんてことはないだろうか。
やっぱり怪しい霊媒師の予約を入れるしかない。
セトくんは迷うことなくどこかに向かっている。
階段を登って、登って。
「ねえ、教室に行くんじゃないの?」
「屋上」
「屋上に何があるの?」
「わかんないけど、屋上に行ったら何か思い出すのかも。さっきナミの家で学校が思い浮かんだみたいに」
さらに階段を登って、誰にも見つからないように廊下を走り抜けて、
屋上へと続く階段を登った。
扉を開けて、屋上に出る。
抜けるように青い空に、入道雲が浮いている。
じりじりと照りつける太陽が眩しい。
ああ、夏だっけ、今ってひしひしと感じる。
この日差しの下にいるだけで、じっとりと汗ばんでくる。
セトくんは屋上の端の手すりに向かっていく。
「セトくん、なにか思い浮かんだ?」
「ここでナミとよく一緒に過ごした……そうだナミは転校することが決まって……」
「転校……」
「ここで転校するって言われたんだ」
「転校ってどこに……?」
「それは……思い出せない……でも、またふたりの思い出の場所が思い浮かんだ!森の丘にある社(やしろ)だ」
「よし、行ってみよう!」
屋上から今度は階段を駆け下りる。
途中で、先生らしきおっさんとすれ違った。
「おい、君達、制服も着ないで校内で何してるんだ!?」
「やばば!逃げなきゃ!」
レナとセトくんはさらにダッシュで学校から脱出した。
「あー、もう息が止まるかと思った!こんなに全速力で走ったことないよ!……嘘!いつもスタッフに追いかけられてた!!」
「何を言ってるんだい?ごめんね、レナ、大丈夫?」
「もう、謝ってばっかりだな、セトくんは!」
「だってボクのせいで」
「もう、謝るのナシ!次行こ次!」
またふたり自転車に飛び乗って、森の丘の社に向かう。
T字路で、セトくんの様子がおかしい……
「あれ?あれ?ハンドルが効かない!?」
「どうしたの?自転車、故障?」
「いや、左に行きたいのに、ハンドルを右に切ろうとするんだ……」
もしかして……
「ニナたん…?」
「いやだ、右は湖があるんだ……行きたくない!!」
セトくんが大きな声で叫ぶと、自転車はT字路を左に曲がった。
なにか大きな力と戦ってるみたいに見える。一瞬、なつかしい匂いがした気がする。
「湖、なんか嫌なことがあったの?」
さっき、行きたくないと叫んだのが気になって聞いてみる。
「たぶん……思い出せないけど、行きたくないって思った」
「行きたくない場所より、行きたい場所に行かないとね!」
森の丘の社は想像以上に高いところにあって、自転車で向かうのも大変だった。
セトくんも汗だく……
がんばって漕いでくれたけど、途中で自転車を降りて、ふたりで歩いて登った。
社の入り口からは階段になっていて、自転車はそこに置いていく。
心臓がバクバクするような、階段を登った先に、古い社があった。
そこは木々に囲まれて、高台のせいか少しだけ涼しい風が抜けていく。
「この奥に、この村を見下ろせる場所があるんだ」
またセトくんは迷うことなく進んでいく。
その後についていくと、木々を抜けて、崖になっていて、村を見下ろせる場所に出た。
レナたちのいたお屋敷の別荘、ナミの家だった廃屋、学校、全部見渡せる。
別荘と廃屋の間くらいには湖もある。
「毎年、夏にあの湖で花火大会があるんだ」
「へー、夏の風物詩的な?」
「そう、この村の人達はみんないろんな場所から花火を眺める。ボクとナミはここで花火を見た。ナミの転校が決まった、あの最後の夏休みに……」
「思い出したの?」
「うん、ナミとの約束を思い出した」
「何を約束したの?」
「10年後にまたここで一緒に花火を見よう、って」
「花火大会って毎年決まった日なの?」
「毎年8月1日」
8月1日。
今日は何日だっけ?
昨日が7月31日だったから……
「今日じゃん!」
「今日が、8月1日……?」
「今日、なのかな?10年後の8月1日」
「そんな、嘘みたいな話あるかな?」
「いやいやいや、すでに嘘みたいな話だから!ニナたんがセトくんになってる時点で!」
「ああ、そう言われるとそうか……」
セトくんが、照れたように笑う。
姿かたちはニナたんなのに、本当に笑い方ひとつで人はここまで別人に見えるんだ。
「とりあえず、ここで待ってみよう」
「霊媒師、手配したほうがいいかもよ」
「今日が終わってもセトくんのままだったら、霊媒師、手配する」
「ありがとう、レナ」
「まだお礼を言うのは早いよ、セトくん」
▽▽▽
日が暮れると、花火大会の前の空砲の音が鳴り響く。
「ナミ、来るかな……」
「来るよ、きっと!」
とは、言ったものの、社(やしろ)にはレナとセトくん以外誰も来る気配がない。
「ここって、花火大会の見どころスポットじゃないの?」
「見どころ……ではないね、ちょっと湖まで遠いから」
「なんでこんなところで……」
「ここはボクとナミの秘密基地だったんだ」
「ふーん」
「ここでいろんな話をした。将来の夢の話とか……ナミは遺伝子の研究者になるんだって言ってて、ボクは……」
「セトくんは何になりたかったの?」
「……思い出せないや。レナは?レナは何になりたいの?」
「えっ……レナは……まだ、わかんないや」
一瞬、言葉につまった。
将来の夢、なんて考えたことなかったから。
目標はあった。アクロスターになること。でも、今は……
「あ、花火が始まったよ!」
スタートを告げる連続花火が空に散る。
隣にいるセトくんを見ると、感情の読めない表情で花火を見ている。
ナミさん、来ないのかな……?
振り返って、誰か来ないか確認する。
女性らしき人影が、社の中に入っていくのが見えた。
「……ん?セトくん!今、社に誰か入っていったみたい!」
セトくんも慌てて振り向く。
「ナミだ!」
社に向かって駆け出すセトくん。
レナも慌てて、あとを追いかける。
社の扉まで辿りつくと、さっきまで閉まっていたはずの扉が10センチほど開いていた。
「ナミ、いるかい?」
セトくんが扉を開けながら奥に声をかける。
返事はない。
社の中は薄暗くてよく見えないけれど、ふたりでゆっくりと奥に進む。
小さな社だから、扉の先にひとつ部屋があるだけみたいだ。
奥の間に続く襖扉はぴったりと閉められていた。
セトくんはそっと襖扉を開けた。
「ナミさん、いませんかー?」
レナの声だけが社に響いた。
やっぱり返事はない。
「……ナミはもう、いないんだ」
「え……?」
「全部、思い出した」
花火が打ち上がるたびに、少しだけ社の中が照らされて、部屋の様子が見える。
セトくんは、奥の間に進むとまっすぐに神棚に向かって歩いていく。
そして神棚の下にある壁板を慣れた手付きで外した。
そこにはブリキ缶の箱が収められていた。
「やっぱり、ここにあった」
セトくんはそう言って、ブリキ缶を手にとる。
「ここにきっとナミからの最後の手紙が入ってる」
レナとセトくんはブリキ缶を持って、社の外の街灯の下に向かった。
街灯の明かりの下で、ブリキ缶をあける。
10年の年季が入ったブリキ缶は少し錆びついていたけど、中身は嘘みたいにきれいなままだった。
ブリキ缶の中に入っていたのは、手紙と線香花火。
セトくんは手紙をそっと取り出すと、ゆっくりと開いた。
 『セトへ

 
 

 ごめんね。転校すること、ずっと言えなくて。
 みんなには言ってないことがあるんだ。

 
 

 私、心臓の病気なんだって。
 病院の中の学校に転校するんだ。
 手術も……受けなきゃならないんだって。
 そうしないと、あと少ししか生きていられないみたい。
 でも、手術が成功する確率は50%なんだって。
 怖いけど、それしかないなら、手術するしかないよね。

 

 セトと交わした10年後の約束は、私の生きる希望です。
 だから、どうかその約束が守れるように祈ってほしいな。
 もし約束が守れなかったら……
 ううん、そんなこと考えるのはやめる!

 

 セトとこの夏、たくさん思い出が作れてよかった。
 すごく楽しかったよ!
 本当に、本当に、ありがとう。
                        ナミ
 P.S.
 セトのこと、怒ってないよ。
 また会える日を待ってる。               』
セトくんの瞳からは大粒の涙がこぼれていた。
手紙の上に、涙のしずくが落ちては、シミを作っていく。
花火はいつの間にかフィナーレの大玉連発になっていて、大きな花がたくさん空に拡がって、そして散って、終わった。
BGMのように鳴り響いていた花火の身体に響く音がなくなって、周囲から音が消えてしまったみたいだ。
「セトくん、『ナミはもう、いないんだ』って言ったよね?それって…」

 

「……うん、ナミは、死んじゃったんだ」
手紙の内容から聞かなくても想像はついたけど。
それでも、セトくんが幽霊になってまで探していたナミが、もうこの世にいないなんて。
「そんな……」
「ナミが遺した線香花火……一緒にやってくれる?」
「線香花火……?」
「うん、この花火が終わったら、ボクも消えるよ」
悲しそうに、セトくんが微笑んだ。
レナとセトくんは線香花火を握りしめて、秘密基地にしゃがみこんだ。
神棚から拝借してきたマッチで、それぞれの線香花火に火を付ける。
10年前の花火なんて、できるのかな?
……パチパチパチ
そんな心配はいらなかった。
数秒の静寂の後、線香花火は弾けはじめた。
セトくんは火がついたのを見計らって、レナの線香花火に自分の線香花火を近づけた。
2つの火の玉がくっついてひとつの大きな玉になった。
『この花火が終わったら、ボクも消えるよ』
その言葉の意味を問いかけることができずにいた。
もう心残りはないの?
セトくんは、ナミの最後の手紙を読みたかったのかな。
そう言えば、セトくんはなんで死んじゃったんだろう。
まるでレナの心を読んだみたいに、セトくんが口を開いた。
「ボクは、ナミの死を受け入れることができなくて……自分で死を選んだ」
お互い、視線は線香花火に向けたまま。
2本分の線香花火は大きな球になって、パチパチ、パチパチと派手に火花を散らす。
この花火が終わったら、セトくんは消えちゃう?
「レナ、ありがとう……」
そう言われた瞬間、顔を上げた。
目の前には、やさしく微笑むセトくん。
そして、目を離した瞬間、ふたりの線香花火の玉がポトリと落ちた。
ジュッという小さなを音を立てて、線香花火はあっけなく終わってしまった。
次の瞬間、ニナたんはまぶたを閉じて、魂が抜けるように崩れ落ちた。
慌てて、ニナたんを抱きとめる。
「セトくん、バイバイ……」
レナは空を見上げて、小さな声でさよならを言った。
▽▽▽
「あーーーーやっと自分の思いどおりに動ける!」
ニナたんが大きく伸びをする。
魂が抜けたように崩れ落ちたニナたんは次の瞬間にはパチリと目をあけて、いつものニナたんだった。
「わーーーーん!!ニナたーん!よかったよーーー!」
「あーもー、抱きつくなよ!暑苦しい!」
抱きつかずにはいられない!うざがられても関係ない!!
ニナたんとふたりじゃれ合いながら、社の階段を下っていく。
社の入り口にはセトくんと乗ってきた自転車が置いたままになっている。
「そうだ、来るときは自転車だったんだ。ニナたん、自転車乗れる?」
「乗ったことない」
「だよね〜でもセトくんが憑いてるときは、上手に乗りこなしてたよ?」
「じゃあ、まだ乗れたりするかな…?」
すっと自転車にまたがるニナたん。
自分でもちょっと乗れそうだと思ってるね、これは!!
やっぱり本物のニナたんが1番だねぇ♪
「お、おお……おお……?おあああああ!!!」
「あぶない!!」
漕ぎ出したニナたんだったけど、少し坂を下るうちにハンドルはガタガタ揺れ、バランスを崩して転倒><
「あちゃ〜!!」
慌ててニナたんに駆け寄る。
「危ないとこだったね……もう少しコケるのが遅かったらそこの看板に突撃するところだったよ!」
「あっぶねー!……ん?レナ、なんか貼ってあるぞ」
看板は、掲示板だった。見ると、思いもよらないものが貼ってあった。
『行方不明の少女を探しています。XXX ナミ(15)』
15歳の少女の写真とともに、25歳の現在の予想写真が並んでいた。
行方不明になった日付は10年前の8月31日……
湖で片方の靴が見つかったって書いてある。
少しでも情報をご存知の方はご連絡を……
『……うん、ナミは、死んじゃったんだ』
あの言葉の意味は……?
END
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