2021.05.10

Side Story「Never ever」


Novel Movieはこちら:
https://youtu.be/gBdCLQafX6w

アクログラム初出場で、僕たちは『アクロスター』の称号を手に入れた。
だけど、その先に満足はなく、むしろ逆だった。
“スパイラル事変”
これが僕らを狂わせたマジック。
不戦勝で手に入れた称号なんて意味がない。
むしろ僕たちのキャリアは汚されたようなもの。スパイラルのカルトファンからケチまでつけられた。
ぜんぶ、スパイラルのせいだ。
だから僕はもう、次のアクログラムを見据えている。今回はノーカンだ。
次こそ、正真正銘のアクロスターになる。圧勝するんだ。誰にも文句は言わせない。
「ねぇねぇニナたん♪レコーディング終わったし、このあと何して遊ぶ??」
次のアクログラムまで1年半。それまでどうやって暇をつぶせばいいんだ。
「……」
「ニナたん!ゲームする?お気に入りのバトロワゲーム、最近やってないでしょ?久々にレナも付き合っちゃうよ??」
レナは変なところで目ざとい。
僕が最近、あのゲームやってないこと、気づいてたのか。
「あれはもう、飽きた」
「ふぅーん」
意味ありげな顔で目を細めてレナがこっちを見てくる。
「なんだよ、文句あるのか?」
「どーせまた、フレンドと喧嘩したんでしょ?」
間髪入れずにレナはニマニマ笑って言う。
確かに、最近あのゲームにログインしていないのには、理由がある。
「わぁ♪ず・ぼ・し!」
「喧嘩はしてない」
「でも、なーんかトラブったんだね、ニナたん」
レナはニマニマ顔のまま詰め寄ってくる。
「それとももしかして……チートがバレた、とかとか?」
「……チートはしてない。ただ、ちょっと……言い過ぎた」
「うんうん、誰に?」
「……いつも一緒にチーム組んでプレイしてた、ばーちゃんに」
「ばーちゃん??」
僕はばーちゃんについて説明する羽目になった。
オンラインゲームでなぜか親しくなった自称『85歳のばーちゃん』
本当にそうなのかはわからない。
ここ数ヶ月、いつも僕がオンラインになるとばーちゃんもいて、ほぼ毎回チームを組んでいた。
ばーちゃんのクセに、ゲームの腕は僕と同じくらい強い。
ゲームに住み着いてるみたいにオンラインだったから、当然のことかもしれない。
でも、ただ強いだけじゃなくて、型破りなプレイスタイルで、一緒にやってて楽しい相手だった。
「へぇぇぇ、そんなスゴいおばーちゃんいるんだ!!で、何を言い過ぎたの?」
「ばーちゃん、僕をオトリにして、自分だけ生き残ったんだ。まあチームとしては勝ったから、そのやり方は間違ってない。だけど、早々に殺されたから、ついムカついて」
何を言ったかは言わなかった。
レナもあえて聞かなかった。
「そっか。で、気まずくなったニナたんは、あのゲームを封印、と」
「……」
僕は何も答えなかったけど、レナはそれを無言の肯定と受け取った。
「反省してるなら、謝ればいいんじゃない?ニナたん、そういうの苦手だけどさ、レナも一緒に謝ってあげよっか?」
「それが、ばーちゃんがオンラインにならないんだ。あれからログイン通知がない……」
僕だって、謝ろうと思ったさ。
だけど、ばーちゃんが現れない。
「それって、そのおばーちゃんに何かあったんじゃ……85歳ってバリおばーちゃんだし……」
レナも先程までの茶化した雰囲気は消えて、神妙な面持ちになった。
「うん、その可能性もある。あー、ムシャクシャするな……」
「ニナたん、落ち込んでるねえ……」
レナ、ウットリしてないか……?
「落ち込んでない!」
「うんうん、ニナたん、根っこは素直ないい子だもんね!おばーちゃんを探そうよ♪」
「ばーちゃんを探す……?」
「ニナたん、得意でしょ?ネットのセカイで探しもの!」
「確かに」
レナに言われるまで、探すって発想が抜け落ちてた。
すぐにPCを起動する。
ばーちゃんのアカウント名、それにIP情報をちょいちょいっと取得して、あとは……
「お、ニナたん、ちょっと元気出てきた♪」
「見つけた!!」
「え!?もう??ニナたん、はや!!」
ばーちゃんの本名は『キヨ・ミュラー』正真正銘85歳。
マジで、85歳……、すごいな。
「住所までバッチリ、ゲット★」
「そこまで調べるつもりはなかったが……!」
どうやら、データを見る限り、生きている。
「この住所、近いよ!ね、直接謝りに行こう!」
「はぁあああ!?直接!?なんで!?」
「謝るなら誠意見せないと!」
「突然行ったら怪しまれるだろ!?」
「ちゃんとアカウント名を名乗ればわかってくれるよ♪戦友だったんでしょ〜?」
オンラインにならない以上、行くしかないのか?
「レナもバリ興味湧いてきちゃった♪つよつよおばーちゃん、会ってみたいじゃん!」
そういう気持ちもなくはない。本当に85歳なのか……?
「会いに行ってみるか……」
 
▼▼▼
そして、僕とレナは無事ばーちゃんの家の応接室までたどりついた。
ばーちゃんの家はものすごい豪邸だった。
僕は『ZIZA-STAR』、レナは『ANEL-STAR』という偽名で挨拶した。『ZIZA-STAR』は例のゲームで名乗っていた、僕のアカウント名だ。
「とてもお世話になったのでどうしてもお礼を!」
と健気さたっぷりにアピールしたら使用人らしき女性が家に入れてくれた。
「大奥様とのご面談に際し、こちらのドキュメントにご署名をお願いいたしいます。」
僕とレナ、それぞれの前にタブレットが置かれる。
表示されたドキュメントの一番上には『機密保持契約書』と書かれている。
僕は素早くドキュメントをスクロールして、ナナメ読みした。
要は、『ここの全ては一切他言無用』に同意させるものだった。
そして、不穏な数の免責事項。。
無言の圧力を感じて、僕らは大人しくサインした。
ZIZA STAR
と。
レナもそれを見て、
ANEL STAR
と明らかに書き慣れていない風のサインをした。
「それでは大奥様のお部屋にご案内いたします」
エレベータを降りるとそこはとても広い部屋だった。
部屋の奥にどうやらベッドがあるようだ。
そしてそのまわりにはたくさんの医療機器。
「キヨ・ミュラー様は、こちらです」
女性が感情のない声で言った。
ベッドの上には、たくさんの管と医療機器で繋がれた高齢女性が横たわっている。
見ただけでもわかる、寝ているわけではなく、意識がない。
「残念ながら、昏睡状態にございます」
僕は深い落胆のため息をついた。
まさかこんなことになってるなんて。
レナの手が僕を労るようにそっと腕に触れる。
「いつから……?」
女性は躊躇なく答えた。
「もう2年になります」
「え?」
思わず、女性のほうを見てしまう。
「これまで支援をしていた方々には、変わらずサポートを続けるよう申し遣っておりましたので、ご存知なくて当然です。通常は大奥様が支援していることすら伏せておりますので、おふたりがここまでお越しになったことも驚きではありますが……」
女性はそう言いながら僕たちのほうに向き直る。
メガネの奥の瞳が鋭く光った気がした。
なんだか変だ。
足元が揺れている。地震?
違う、僕が揺れてるんだ……
なんだ、貧血か?やがて僕の意識は途切れた……
 
▼▼▼
「……たん、ニナたん!!起きてよーーー!!」
「ううん……うっっさいな!」
ハッと目を開ける。
薄暗い部屋。あたり一面コンクリート壁。
あれ? ここ、どこだ……?
そうだ、ばーちゃんの寝ている部屋に入ったところで、意識が途切れて……
「やっと起きた!!」
背中越しに聞こえるのはレナの声。
徐々に意識がはっきりしてくる。
「痛っ……」
全身に痛みが走る。
明らかに様子がおかしい。全身に力を入れる。
「なっ……なんだこれ……!」
身体が動かない。
椅子?僕は椅子に座っているのか?
「ちょっとニナたん、痛い痛い!!動かないで!!」
レナの声と合わせて僕の手が引っ張られる。
ガシャガシャと金属音が鳴る。
おいおい、マジかよ……
手錠だ。僕らは後ろ手に拘束されている。
どうやら、僕の右手とレナの右手は繋がれているらしい。
左手も同じ。
さらに手錠の鎖は椅子の背もたれの穴を通してある。
よって僕たちはこの椅子から離れられない。
首を動かして周囲を見る。
「一体、なにがどうなってるんだ?」
「わかんない……レナもさっき起きたとこ……」
夢なら今すぐ覚めてほしい。
なんだか絶望的な気分に支配されそうだ。
「これ、映画で見たことあるような……」
そう呟いた瞬間、僕の正面の壁にあるディスプレイが点灯した。
『0:15:00』
真っ赤な数字が目の前に表示される。
それとほぼ同時に、
『ウェルカム トゥ マイ プレイス!!アストラム!!』
突然電子音声が鳴り響く。
「なにっ!なんなの!?」
レナが声の主を探してキョロキョロしている。
アストラムって言ったよな、今。どういうことだ?
『セイゲン ジカン ハ 15 フン』
『サァ ココカラ ダッシュツ シテ クダサイ!』
ディスプレイがカウントダウンを始める。
『0:14:59』『0:14:58』『0:14:57』……
まるで時限爆弾のようだ。
数字の赤色が部屋中に照らされる。
「ニナたん!!これ、ドッキリかな!?」
「だとしたら冗談がすぎる」
「リアル脱出ゲームってやつ?」
「そんな呑気な状況だといいけど」
とにかく、部屋の中を調べるしかない。
幸い、足は自由に動かせる。
動くにはレナと息を合わせなければいけない。
「レナ、とりあえず立ち上がってみよう」
「オーケー!!」
「「せーのっ」」
「「痛っっ!!」」
また、手首に激痛が走る。
椅子がピクリともしない。
残念なことに、椅子は床にガッチリ固定されていた。
「……なんだよ、これっ!」
まずはこの手錠をどうにかしないとダメってことか。
15分で脱出しろ?やってやろうじゃないか。僕をナメるな。
「ニナたん、どうしたらいいの?」
「今、考えてる」
部屋の中を見回す。
僕はレナと反対方向を向いている。
正面の壁。
残り時間を表示するタイマーがある。
その下には大きな壁掛け時計。
左右の壁。
両方に白い棚が設置されている。
それぞれ、横3列 縦3段ある。
左の棚には多くの本が収納されている。
右の棚はショーケースになっていて、色々なものが飾られている。
背後の壁。
レナから見れば正面だ。
3枚の絵が飾られているようだ。
僕からは詳細は見えない。
頭の中にこの部屋の俯瞰図を描く。
背後の3枚の絵の情報を得るにはレナの協力が必要ってことだ。
そして手錠。手にかけられている。
手錠そのものは首を動かしても見えない。
なので、触って確認する。鍵穴があるようだ。
最後に、椅子。
椅子も見える範囲には仕掛けらしきものはない。
「ねぇニナたん、椅子の後ろにボタンがあるよ!押したら手錠はずれるかな!?」
「あ、レナ、待て!」
「ポチッとな♪」
止める間もなく、レナは手探りで見つけたボタンを押したらしい。
『ブブー!!』
いかにもハズレな効果音ともに耳の横を鋭い風切り音がした。
シュッ……
パサリ、とレナの髪の毛が一房落ちた……
「ひぃぃぃぃっっっ」
「レナ、大丈夫か!?」
「……大丈夫大丈夫っ……髪の毛がちょっと切れただけ……顔は無事!!えへへ……」
レナは無理やり笑っているが、だいぶビビっているのは間違いない。
そういや、最初に免責契約に署名させられたっけ……
これを仕組んだやつは相当、用意周到だ。
やっぱり、仕掛け人はばーちゃんかな。
ゲームの腕を思えば、相当頭も切れるはず。
ああ、もっとちゃんと調べ上げてから来るんだった。
「ボタンとか何か見つけてもいきなり押したり操作するなよ、レナ?」
「おけおけ、レナ、もう何も触りたくない……」
僕が改めて椅子を見て、触って調べる。
手を動かすと、座面の裏に横並びに5つの突起物があった。
これがさっきレナの押したボタンか。
僕の椅子もレナの椅子も、同じようにボタンがある。
このボタンを正しく押せば、何かが起こるってことか?
改めて、左側の本棚を見る。
タイトルも背表紙の色も様々。法則性があるようにも思えなかった。
右側のショーケースを見る。
本棚と同様に9つの棚に分かれている。
下段のものは品物も個数もわかるけど、中段と上段は座った目線だと何が何個あるかわからない。
どちらも現時点ではヒントにはならなそうだ。
となると、レナの方か。
「レナ!正面にある絵の内容を教えてくれ」
「う、うん!」
レナの正面には、3枚の絵が横並びで飾られてる。
まず、一番左の絵。
額縁は全部黒。
椅子が3つ描かれている。
椅子の並びは、
上にふたつ、下の左側にひとつ。
左側の上下の椅子には、人が座ってる。
右上の椅子は、無人だ。
そして、
3つの椅子の下に時計が描いてある。
時計に数字は書いていないが、短針が9、長針が6を指している。
椅子、時計。椅子には上段下段がある。
椅子のボタンのを解くカギになりそうだ。
「真ん中の絵は?」
僕はさらに尋ねる。
真ん中の絵。
額縁の左側だけ白、あとの3辺は黒。
一番上に時計が書いてある。短針が3、長針が12。
その下に椅子が3つ描いてあって、配置は左の絵と同じ。
上にふたつ、下の左側にひとつ。左側の上下の椅子には人が座ってる。
「オーケー、一番右」
右の絵。
額縁の下の部分だけ白であと3辺は黒。
右側に時計がある。短針が6、長針が3。
今度は4つ椅子が並んでいる。
上の段に2つ、下の段に2つ。
下の段の左と上の段の右に人が座っている。
「オッケー解けた!」
「え、解けたの!?えーとえーと……あ!!レナもわかったかも♪」
僕の椅子のボタン。
壁掛け時計に向かって一番左のボタンを押す。
そして1個飛ばして、左から3番目、4番目のボタンを押す。
●○●●○
不正解のブザーが鳴る気配はない。
「ニナたん、こうでしょ?」
レナは、端からひとつ飛ばしでボタンを押していった。
●○●○●
カタリ
どこかで物音がした。
ビンゴ。
さすがレナだ。
あたりを見回す。
「ニナたん!!鍵があるよ、ふたりの椅子の間の床んとこ!!」
レナの言う通り。
ちょうどふたりの椅子の間の床に穴が空いて、その中に鍵が見えた。
「手は届かない……どうやって拾えばいいんだ……」
「レナさまにまっかせなさ〜〜〜い♪」
レナはいそいそと靴を脱ぎ、靴下を脱いでいる。
まさか足で拾うつもり……?
レナは椅子に浅く腰掛けるように腰を移動させていく。
「ちょっとニナたん!もう少し手をレナのほうに寄せて!!」
「わかったよ!!」
「んしょんしょ……よし、足が穴にはいったぞっと……」
背後でニナがモゾモゾしている。
「むむむ……なかなかにムズカシー……」
「なんか他の方法があるんじゃないか?謎を解くとか……」
「それはニナたん考えてて!レナは足で拾うのがんばってるから!」
「うーん……」
左の本棚、右の棚……交互に見ても役に立ちそうなものはないし、そもそも近づけない。
やっぱりこれ足で拾えってことなのか?
「よし!!鍵を穴から出した!!けどすべって鍵がニナたんのほうに行っちゃった〜」
「しょうがないな……」
僕も急いで靴を脱いで、靴下を脱ぐ。
右足で鍵を捕まえる。足の指じゃなかなかうまく掴めない……
「ああっ!!クッソーーーー!!」
謎を解くよりこっちのほうがイライラする!!
「ニナたん!!焦らないで!落ち着いて!!」
「気が散るから!レナ、黙って!!」
「むーん……」
足の裏が汗ばんできた……このほうが鍵をよりグリップできるかも……
「よし!!鍵を掴んだ!!あーダメだ、手が届かない……足がつりそう……レナ……鍵……取って……!」
「任せてっ!!ニナたん、もうちょい足上げて、もうちょい!!はい、鍵ゲットー!!」
「はぁはぁ……足がつるかと思った……」
レナがカチャカチャと僕の左手の手錠に鍵を差し込む。
カチャリという音ともに手錠が外れた。
鍵を受け取り、お互いの手錠をすべて外す。
「ようやく手錠と椅子から開放された……」
「ああ、両手が使えるって、幸せ♪」
立ち上がって伸びをするレナを横目に僕はディスプレイの残り時間を確認する。
『0:06:04』『0:06:03』『0:06:01』……
残り6分……
「レナ、部屋の中を調べよう。ボタンがあっても押すなよ!」
「了解!フリだよね??任せて!!」
おいおい……全然わかってない。
さっき死にかけてたんだぞ?突っ込む気すらおきない。
僕は左側の本棚を見る。
3×3で9つに分割された棚に、本がびっしり並んでいる。
ただし真ん中の棚だけは、本は1冊も置かれていない。
「ニナたん!棚の真ん中にボタンがある!」
反対側の棚を調べていたレナが叫んだ。
いったん、左側の本棚はおいておいて、
右側のショーケースにあるらしい、レナの言うボタンを見に行く。
右側の棚、ショーケースも3×3で9つに分割されている。
真ん中の棚には、いかにも押してくれと言わんばかりの赤い手のひらサイズボタンが鎮座していた。
「むやみに押すなよ、レナ!!」
「オッケーわかった!ポチッとな♪」
「オオオオオイ!!!!!」
レナがポーンと勢いよくボタンを押した。
「なにも……起こらないのか……?」
「今度は大丈夫みたいだねっ」
そんな会話をしていると、
『ノコリ 5 フン!! ノコリ 5 フン!!』
また電子音声が響いた。
残り5分か…
「このボタンなんだろうね?」
レナが赤いボタンを連打する。
そのたびになにか物音がしているような……
振り向くと、本棚の真ん中の棚、何も置かれていなかった場所に人ひとりやっと這って通れるくらいの間口が開いたり、閉じたりしている
ボタンから手を離すと、間口は閉まる。
「レナ、ボタンを押し続けてみて!本棚に通路みたいなものが……」
レナがボタンを押しながら、本棚を振り向く。
「ニナたん!あの穴が脱出口なんじゃないかな?」
「脱出口……」
そうなのか?
もし、そうだとすると……
「いや、それだと一人しか脱出できない」
「レナがボタン押してるから、ニナたんが逃げて!」
言うと思った。
レナはいつだって、そうやって僕のことを優先する。
まったく、双子のくせにお姉ちゃん気取りをいつもする。
だけど、今回はそういうわけにはいかない。
「ふたりで脱出できる方法があるはずだ。絶対に」
このふざけたゲームの首謀者がばーちゃんだとして、あの人情味あふれるばーちゃんの行動パターンを考えるなら、一人しか脱出できないシナリオを書くようなタイプではない。
「あ、もしかして外した手錠置いたら、ボタン押し続けられるかも?」
レナが閃く。
「ダメだ。手錠じゃ軽すぎて使えない」
「やっぱダメか〜。残り時間あと3分もないよ。ニナたんだけでも逃げて!」
「ダメだ!!ふたりで逃げる方法が絶対ある!」
考えろ、考えろ!
探せる場所は探し尽くした……
入力装置らしきものは今、このボタンだけ。
本棚も、ショーケースの棚もあらゆるものが固定されて、動かせない。
見える情報に関連性は見つけられない。むしろただのフェイクっぽい。
だとしたら……?
まだ探してない場所は……?
あの穴の先、だ。
何か手がかりがあるとすれば。
「レナ、ボタンを押し続けてくれ。中を見てくる」
「もう時間がないよ!!」
「レナ、聞いて。僕の考えではこの穴はフェイク。ここから逃げれるとは思えない」
レナは複雑な表情で聞いている。
「けど、この穴の中にたぶん脱出のための手がかりがある。」
「……」
「だからレナ、絶対ボタンから手を離すな!ボタンから手を離したら僕はこの部屋に戻れなくなる。」
「……わかった、ニナたんを信じる」
僕はもう一度、念を押す。
「僕を逃がそうと思ってボタンを離したりするなよ!それこそゲームオーバーだ」
「うん!約束する!!」
「ああ、約束だ」
思えば、レナは絶対に僕との約束を守る。
待ち合わせだって、誕生日にほしいプレゼントのリクエストだって、絶対に守ってきた。
レナは僕を裏切らない。
「オッケー、レナ、ボタンを押して!」
レナはすぐにボタンを押した。
僕は腹ばいになって間口に身体をすべりこませる。
這って奥へと進んでいく。何か手がかりはないか左右の壁にも注意を払いながら。
ちょうど足まで入り切るところまで進んだけど、まだ何も見つからない。
「どこだ……絶対にあるはず……」
手をのばして先を確認する。
手が空を切った。床がなくなっている。
注意しながら床の切れ目まで進む。
下を覗いて見ても、白い壁に明るい光源が当てられて、どれくらいの深さなのかもわからない。けどここから落ちたら脱出できるより、怪我するか死ぬ可能性が高そうだ。
それにしても手がかりがない……まだ確認してない場所は……。
僕は身体を反転させて、仰向けになった。
そして低い天井を見る。
「あった!!!!」
05:23
数字が刻まれていた。
素早く腹ばいに戻って、後退りして間口から部屋に戻る。
レナは言われたとおり、ボタンを押し続けてくれていた。
「ニナ、ボタンから手を離して大丈夫だ!」
「ヒントあったんだね!!」
「あの壁掛け時計だ!」
ディスプレイの残り時間は1分を切っていた。
僕は壁掛け時計に走り寄り、時間を5時23分に合わせた。
壁掛け時計がボーンと響く音を鳴らすとともに、
ガタゴトと音を立てて、ショーケースの棚の真ん中の列が床に沈んでいく。
そしてその場所にドアが現れた。
残り時間、30秒。
そっとドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。
「これで脱出だよね?」
レナが嬉しそうに言う。
「だといいけど……」
僕は扉を勢いよく開けた。
  
▼▼▼
ドアの先は何もない真っ白な四角い部屋だった。
「まだ続くのかよ!」
部屋の照明が消えて真っ暗になる。
『ダッシュツ オメデトウ ソレデハ サイゴ ノ チャレンジ デス』
僕とレナだけにスポットライトが当たる。
『ウタ ヲ ウタッテ クダサイ』
『アクログラム ジュンケッショウノ アストラム ヲ コエル パフォーマンス ヲ シタラ カエレマス』
「なんだって?」
『ゼンセカイ ノ アストラムファン ガ チャレンジ ヲ ミマモッテ イマス』
「ええええ、今、配信されてるの!?ここで歌うってこと!?」
「なんだよ、この企画……」
準決勝の僕たち、あれは控えめに言ってもかなり最高のパフォーマンスだった……
それを超えろって?
「なぁレナ」
「?」
「ファイナルでスパイラルを打ち負かす予定だった、あの曲をやろうぜ」
「……キャハ♪りょーかいっ!!本気のやつね♪」
レナに目で合図を送る。レナが力強くうなずく。
「「We are ASTRAM!!!!」」
イントロが流れ出す。
この曲は封印していて公表していない。打倒スパイラルを意識して作った曲だったから。だから、僕のグラムボールにしかないはずなのに……
マジで、これを仕組んだやつ、誰だ?
頭の中にそんな考えが駆け巡りそうになるのを振り切って、歌に、パフォーマンスに集中する。
誰かのグラムボールがこの部屋の音響をコントロールし、オーディエンスの数、盛り上がり、それらをスコアリングしてホログラムとして映し出す。
どうやら本当にこの映像は世界中に配信されているらしい。しかも点数化してるだと?
これでもし、準決勝に及ばないパフォーマンスをしたら、ASTRAMは過去の自分たちにすら負けたことになる。
それが全世界にストリーミングされてるということは……
まさしく、『元の場所には帰れない』ってことか……
「ほら、みんなもっと飛んで!もっと叫んで!もっと僕たちを楽しませてくれよ!」
間奏の間に、僕は叫んでオーディエンスを焚きつける。
レナが即興でコーラスを入れて、さらに盛り上げる。
グラムボールが伝えてくるオーディエンスの熱量に押されるように、
レナのコーラスはどんどん音階を上げて、ホイッスルボイスになる。
鳥肌が立つような感覚。
僕も負けじとダンスに力を入れる。もう即興だ。
最高に盛り上がって、最後のサビに突入。
そのままのテンションを保って、最後まで走り抜けた。
ああ、全力で踊って、歌って、身体中の細胞が酸素を求めてる。
酸欠で意識が飛びそうだ……
僕らは、『準決勝の僕ら』を越えられたのか……?
上がり続けるスコアを横目に見ながら、僕はまた意識を手放した。
  
▼▼▼
「ご自宅に到着いたしました」
気がつくと、僕とレナはいつもの送迎車の中にいた。
横を見ると、同じようにレナが狐につままれたような顔をしている。
ふたりとも困惑したまま、車を降り、マンションに入る。
エレベータの中でようやく、レナが口を開いた。
「夢、じゃないよね?」
「夢だったとは思えない」
自宅に入ると、何ひとつ変わった様子はなかった。
ただ、明らかに時間は経過していた。
僕らがスタジオを出たのはまだ昼前だったはずなのに、今はもう日が沈んでいる。
「Hey、グラムボール 『ASTRAM』をサーチして」
あれがリアルだったのかてっとり早く確認する方法。
結果は、
『ASTRAM、最新曲発表にリアル脱出ゲーム企画!?』
『ASTRAM、突然の新曲配信にファンは騒然』
『ASTRAMの姉妹愛に感動の嵐!』
『ASTRAM、最新曲発表にこれまでにない手法!』
『ASTRAM、アクロスターにふさわしい力量』
……
「やっぱり夢じゃなかった」
「ふぇぇぇ……すっごい世の中ASTRAMで盛り上がっちゃってるねぇ♪」
「喜ぶなよ!」
「いいじゃん〜♪アクロスターになってから、サーチリザルト、ネガティブめだったのに、今、超絶ポジティブになってるよ〜」
「うわ、マジであの脱出ゲームのところから配信されてたのか……」
適当に再生した動画がホログラムに映し出される。
レナがドアップで映っている。脱出ゲーム中に配信されてた映像らしい。
『レナはニナたんを信じる……絶対に信じる……レナはニナたんとの約束を絶対に守る……』
ドアップで、レナの伏せられた目のまつげがフルフルと揺れる様子が流れる。
へぇ、レナのこんな泣きそうな顔、かなりレアだな(笑)
「わ!?わ!?なにこれなにこれ、なにこのクソ恥ずかしい映像なに!?」
そのままカメラはレナのどアップからボタンを押し続ける指先に移動する。
ボタンを押し続けるレナの指も小刻みに震えている。
『絶対に、ニナたんと一緒に帰るんだから……レナたちはずっと一緒なんだから……』
あの時、レナはこんなこと考えてたのか……
考えてることそのまま口にでてるし。
あの時、一瞬だけ考えた。
『ひとりしか脱出できない可能性』
もしそうだったとしたら、僕はレナだけを逃がすために、レナを騙すために僕の頭脳をフル回転させてただろう。
そしてレナも同じように僕だけを逃がすために……
考えてもしょうがないか、無事だったんだし。
僕たちはこれからもずっと一緒だし。
「ああああああ、もう、やめてぇぇぇぇぇ!!!!」
レナが顔を真っ赤にしてホログラムの前で飛び跳ねてる。
「このシーンが歌う手前で同時接続数最高だったみたいだ!レナ、よかったじゃん」
「ぜんっぜんよくない!!セレブでクールビューティなレナ様のイメージが、台無しに!!」
「いやレナ、元々それはないから大丈夫」
「そっか!」
「しっかし、これほんと誰の仕業だったんだ」
「でも、このドッキリのおかげでASTRAMのトレンドステータスがポジティブになったってことは、エージェントが仕組んだんじゃないのかな?」
「エージェント?あいつらにここまでやる知能があるかな?」
「うーん、どうだろ?」
『ヤァ、アストラム』
あの部屋で聞こえてた電子音声がまた響いた。
あたりを見回すとどうやら、発信源はグラムボールのようだ。
『タノシンデ モラエタ カナ?』
「お前、誰なんだよ?ばーちゃんのふりしてたんだろ?」
思わず、グラムボールに向かって叫ぶ。
『ワタシ ノ コト ガ キニナル ナラ ジブン タチデ サガシテ ゴラン』
僕たちのことをからかうように電子音声が応える。
『マタ アソボウ ワタシ ハ アストラム ノ ファン ダヨ』
「ファンだって!拉致して閉じ込めておいて!」
『ジャ マタネ』
「おい!まて!」
それからしばらくの間、僕は全力で今回の黒幕を探した。
ネットを駆使して、探した。
だけど、何も手がかりは見つけられなかった。
ゲームでももう二度とばーちゃんに会うことはなかった。
でも、またどこかいつかで、何か仕掛けてくるような気がする。
これは予感じゃなくて確信だ。
END
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